「PANORAMA-2」

 奈々美と知り合ったのは、父が死んでから半年ほど経ってからだ。高校時代からの親友である宏明が、大学の構内にある図書館で勉強をしていた奈々美に声を掛けた。それは俗に言うナンパ以外の何ものでもなかったのだが、その後の、僕ら三人は意外なくらいすんなりと友情を深めていった。
宏明には不思議な魅力があった。特別かっこいいというわけでもなく、さほど頭がいいというわけでもなく。ただ、何をやらせても人から嫌われるということがない男だった。いやらしさがないというか、呆れるくらい自然体というか。とにかく掴みどころのない男だった。
僕らは三人で色々な場所へ行った。リサイクルショップで買った小さなテントと寝袋、折り畳み式の青いテーブルと椅子のセット、そしてカセットコンロと七輪(七輪もリサイクルショップで買った物だ)を持って、海や川や湖、時には雪の降る冬山にも行った。そして言うまでもなく僕ら三人の相性は最高だった。
宏明は週末になると、何かの雑誌を手にしながら目的地を僕と奈々美に告げ、奈々美は、授業をさぼりがちな僕と宏明に、丁寧すぎるほど丁寧に勉強を教えた。(宏明は経済学を専攻したことをいつも後悔していた。奈々美は英語とフランス語が得意で、大学を卒業したらフランスかイギリスに留学して、インテリアコーディネートの勉強をしたい、と嬉しそうに語っていた)そして僕には、運転手という重大な任務が任されていた。(四月生まれの僕は、同い年の誰よりも早く車の免許を取っていたからだ)食料や酒などの調達は、始めのうちこそ僕と宏明で行っていたのだが、毎回のように予算オーバーする僕らに業を煮やした奈々美が、あたしも、と言ったことで、結局は三人で行うことに決まった。(アルバイトもしていないのに、一泊二日のキャンプに一万五千円分も食料を買い込む必要などどこにもないのだから)
こうして、それぞれの任務を果たし、僕らは毎週のように短い旅を楽しんだ。
いつだったか、多分大学三年の春だったと思う。いつものように僕らは道志川のキャンプ場にいた。そこは三人のお気に入りのキャンプ場で、一年かけてやっと見つけたベストスポットだった。(静かな川が好きな宏明と、温泉に入りたい奈々美と、できるだけ近場を選択したい僕。三つの希望を叶えられる唯一の場所だ)
慣れた手つきでボロボロのテントを組み立て、安い肉と野菜、そして特売品の焼きそばをバーベキューにして乾杯をした。まだ夜と言うには早い時間で、ランタンを点けなくても僕には二人の顔がはっきりと見えていた。
六本入りの缶の発泡酒を二セット買っていたがすぐに飲み終えて、僕らはワイン(これも特売品だ)のコルクを開けた。フルーティというのは名ばかりで、寒気を覚えるほど渋い味のワインだった。僕らはビールでも飲むかのように、そのワインを喉ごしで堪能した。
ふと空を見上げると、数え切れないほどの星たちが強い光を放っていた。緩やかな風と、虫の鳴き声。そして僕は立ち上がり、ランタンに火を灯した。

何をしているんだい? 椅子に腰掛けた僕は、テントの中でゴソゴソと何かを物色する

 

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