「うーん、学校は好きだよ。友達がいるし、お弁当とか食べられるし」
「おいおい、それは学校じゃなくてもできるじゃん。友達だって外でも会えるし、弁当は論外だなぁ」
「そうだけど、学校じゃなきゃみんなにいっぺんには会えないじゃん。ただ、勉強は好きじゃないかも」
「だろ? この学校の連中はおかしいんだよ。勉強勉強ってさ。あいつらみんな勉強中毒なんじゃないかって思うねオレは」
「じゃあどうして山西君は学校に通ってるの?」
茜の一言に僕は一瞬固まった。僕はどうして学校に通っているのだろう。僕にとって学校に通い続けるということは必要なことなのだろうか。もしかしたら、それは無駄なことではないのか。そして僕にとって学校に通い続けるということが本当に無駄なことだとしたら、その無駄を続ける理由はあるのだろうか。しかし、僕の中には『学校を辞める』という選択肢は持ち合わせてはいなかった。それは単なる両親を含めた大人達への反抗などという言葉では解決できない行為だと知っていたし、学校を辞めるという行為は、僕自身にとって埋め様のない未来への不安に変わることを漠然と理解していたからだ。
「いや、どうしてって聞かれても……。じゃあさ、久保田はどうして学校に通ってるの?」
「あたしは、夢があるから」
茜の口から零れた『夢』という言葉は、僕にとって予想外のものだった。
「久保田の夢って何なの?」
「それは教えられないよ」
「どうしてさ」
「だって同じクラスだけど今までちゃんと話したこととかないし……」
僕らはとりとめもなくそんな会話を続けた。時間にしたらほんの数分だったと思う。そろそろ行かなくちゃ、と言って茜は保健室を出て行った。僕もしばらくして教室へと足を進めた。
そういえば、僕の夢って何だろう。小学生の頃は、プロ野球選手とか警察官とか、本当に数えきれないくらい夢があったのに、いつしか夢なんて考えもしなくなっていた。今の僕には、半年後とか、良くて二、三年後の将来しか想像できない。ましてや、自分以外の人間に対して「オレには夢がある」だなんて口が裂けても言えない。堂々と『夢』という言葉を口にできる茜が僕には羨ましく、そして素敵に感じられた。
「ヤマケン、遅ぇよ」